日本では空き家の増加が社会問題化しており、その数は今後も増え続けていくことが予測されています。
このような状況を受けて、国は様々な側面から空き家対策に取り組んでおり、「空き家対策特別措置法」の制定など、新たな法律の制定や法改正がおこなわれています。
空き家対策を目的とした法改正の一つに、平成30年に公布された用途変更に関する建築基準法の改正があります。
そこで今回の記事では、用途変更に関する建築基準法とその改正内容についてご紹介いたします。
法改正前の用途変更はどんな内容?特殊建築物と非特殊建築物とは
はじめに、改正前の建築基準法における用途変更について解説いたしましょう。
まず、建築基準法の定めるところにより、建築物を設計する際には、その建物の用途を申請する必要があり、用途変更とはその建物の用途を変更することを指します。
改正前の建築基準法では、用途変更の際には以下の手続きが必要とされていました。
●3階以上の建築物では、建物全体を耐火建築物の条件に適合させなくてはならない。
●延べ面積が100㎡を超える場合には、用途変更の建築確認申請を要する。
●空き家を含む「既存不適格建築物」は、様々な手続きを要する。
この中でも、建築確認申請を要するケースについてもう少し詳しく見ておきましょう。
建築基準法による分類では、建築物は「特殊建築物」と「非特殊建築物」に分けられています。
特殊建築物には、学校や体育館、病院などの公共施設、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、ダンスホール、遊技場などの娯楽施設、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿などの宿泊施設、車庫、危険物貯蔵場や畜場、火葬場、汚物処理場などがあります。
一方、非特殊建築物には、専用住宅や長屋、事務所、銀行、市役所、寺社などが挙げられます。
このうち、非特殊建築物から特殊建築物、特殊建築物から非特殊建築物への用途変更や、特殊建築物の類似用途間での用途変更では、建築確認申請は不要とされています。
たとえば、特殊建築物である飲食店を非特殊建築物である住宅やオフィスへと用途変更するケースでは、建築確認申請は不要です。
また、劇場を映画館へと用途変更するケースは類似用途間の用途変更とみなされるため、建築確認申請をおこなう必要はありません。
ただし、特殊建築物のなかでも、飲食店とその他の特殊建築物間の用途変更では、類似用途間の用途変更とみなされない場合が多いため、注意が必要です。
つまり、改正前の建築基準法では、類似用途ではない特殊建築物への変更で、100㎡を超える延べ面積を有する場合、用途変更の建築確認申請が必要だったということになります。
空き家に多い既存不適格建築物・違反建築物って?その違いなどを解説
とくに空き家の用途変更に関して、もう一点理解しておいた方がよいのが、「既存不適格建築物」と「違反建築物」の違いです。
「既存不適格建築物」とは、その建物が建てられた時点で法律に沿って建築された建築物のうち、その後法律が改正されたために、法律に適合しなくなってしまった建築物を指します。
一方、「違反建築物」とは、その建物が建てられた時点で、すでに法律に違反していた建物、もしくは違法な増改築工事がおこなわれた建築物を指します。
既存不適格建築物や違反建築物の用途変更をおこなう場合、違反建築物については、用途変更前に現行の法律に適合させるための工事が必要となり、既存不適格建築物については、適合しなくてはならない法律の範囲が拡大します。
空き家の場合には、築年数の古い建物が多いため、既存不適格建築物である場合が珍しくなく、空き家の用途変更をおこなう際には、この点には注意が必要です。
また、空き家をはじめとした中古物件の用途変更で、とくに問題となるのが、既存不適格建築物か、違反建築物かといった判断ができない建物が少なくないことです。
現在では、建築工事が完了すると完了検査を受けて、検査済証が交付され、これにより、その建物が建設時の法律に適合しているかを判断することができます。
しかし、かつて完了検査の受検率はそれほど高くなく、1998年には38%など、建設当時の法律に適合しているかが判断できない建物も多く存在しているのです。
また、1990年代までは、建築確認を怠る、建築確認通りに建設しないなどのケースもあったため、とくに築年数の古い空き家などでは、既存不適格建築物や違反建築物の判断が付きにくいことが珍しくないのです。
この問題については、2014年に国土交通省が検査済証がない建築物の扱いに関するガイドラインを公表しているため、空き家の用途変更で検査済証がない場合はガイドラインを参照する、専門家にアドバイスを仰ぐなどの対応が必要となります。
建築基準法の法改正で用途変更はどう変わった?
ここまで、用途変更に関する建築基準法とはなにか、法改正前の内容について解説してきました。
ここからは、用途変更に関する建築基準法の法改正の内容について、ご紹介いたします。
この法改正は、国土交通省が平成30年6月27日に交付したもので、地域の安全の確保や空き家の活用、整備の推進などを目的としています。
この法改正の背景としては、用途変更に必要な工事や手続きに関する規定が空き家活用をおこなうにあたってのハードルとなっていたことが挙げられます。
法改正前の用途変更のハードルの高さを示す資料としては、国土交通省の「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」があります。
2015年度上半期のデータによると、総工事数256万2,041件に対し、工事目的が「住宅」で用途変更がおこなわれたのは2万3,450件と、全体の1%以下となっています。
法改正前の規定では、用途変更がいかにハードルが高かったかを端的に示していると言えるでしょう。
それでは、建築基準法の法改正での改正内容を見ていきましょう。
この法改正での用途変更に関する改正内容は、主に以下の3点です。
●3階建て以下で床面積200㎡以下の建物であれば、建物全体を耐火建築物にしなくてもよい
●用途変更の確認申請を要するのが、延べ面積200㎡を超えるの建物に
●既存不適格建築物の用途変更では、現行の法律に適合するための工事は一度におこなうのではなく、段階的・計画的に進めてよい
まず、耐火建築物への工事が必要なケースについては、このほかにも、飲食店への用途変更であれば特段の措置は不要となりました。
一方で、宿泊・居住・医療・福祉施設では、自動火災報知設備の設置や階段の安全措置を講じる必要があります。
また、用途変更の確認申請が必要なボーダーラインが100㎡超から200㎡超へと緩和されていますが、日本の空き家のおよそ6割が床面積100㎡から200㎡の間だと言われています。
こちらの規制緩和も、空き家の用途変更を容易にし、利活用を促進する狙いがあると言えるでしょう。
さらに、既存不適格建築物の用途変更についてですが、とくに問題とされてきたのが検査済証のない空き家などについてです。
これまでこうした建物は、用途変更をおこなうにあたり既存不適格建築物であるか、違法建造物であるかの判定や、現行の法律に適合させるための工事をあらかじめ完了しておかなくてはなりませんでした。
これが、今回の法改正により、適法な建物とするための工事は、段階的・計画的におこなえばよい、と手続きの条件が緩和され、空き家などの築年数の古い建築物の用途変更手続きのハードルが下がったというわけです。
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