人口が多いはずの大都市での空き家の増加が、年々顕著になってきています。
東京の人気エリアでもある世田谷区は全国で空き家が最も多い一方で、人口の増加も著しく、住宅需要の伸びも予想されており、自治体などにより空き家解消に向けた取り組みがおこなわれています。
そこで今回の記事では、世田谷区の空き家について、その現状や自治体の取り組み、空き家の活用事例についてご紹介いたします。
世田谷区の空き家の現状は?空き家数は全国最多!
はじめに世田谷区の空き家の現状について見ていきましょう。
世田谷区内の空き家数は長年増加し続けています。
総務省統計局が5年ごとにおこなう住宅・土地統計調査によれば、世田谷区内の住宅総数は平成10年から平成25年にかけて約9万戸増加し、50万6000戸ほどとなっています。
また、区内の空き家数は昭和63年から平成25年までの間に30270戸から52600戸と7割ほども増加し、空き家率も昭和63年の8.5%から平成25年の10.4%と2%増加しています。
平成30年度の住宅・土地統計調査によれば、世田谷区の空き家の数は全国最多の4万9070戸と、その前回にあたる調査での約5万3000戸よりは減っているものの、依然として高い数値を保っています。
特に区内の空き家の中でも増加傾向にあるのが、賃貸や売却、または自分で使用するなどの目的が定まらない、いわゆる「その他の住宅」です。
使用目的や予定がある空き家は使われていなくともきちんと管理されることが多いですが、使用する目的や予定のない空き家は放置されるケースが少なくありません。
世田谷区の調査では、このような使用目的のない空き家は平成25年の時点で1万9690戸と、5年間で86%も増加しているという統計が出ているのです。
また、世田谷区が平成28年および平成29年の空家等現地調査のデータを区が分析した結果、区内の空き家は「世田谷・若林・太子堂」、「東玉川・奥沢」、「成城・祖師谷」エリアに集まっています。
これらのエリアは65歳以上の高齢者のみの世帯が多く、また旧耐震構造の建物が多い傾向にあることがわかっています。
これらの地域の一部では、建物倒壊や延焼の危険度がほかの地域と比べて高いのも特徴です。
このように、世田谷区の空き家数および使用目的のない空き家の数は増加傾向にあり、なかでも空き家の集中するエリアでは高齢者のみの世帯が多いことに加え、築年数が古く、管理不全と思われる家屋が多いのが現状です。
一方で、世田谷区の人口は平成7年まで減少を続けていたものの、それ以降は増加傾向に転じ、平成28年度には、883,289人となっており、同様に世帯数も461,518世帯と増加傾向にあります。
世田谷区では空き家の数が増えていると同時に、人口や世帯数も近年増え続けており、空き家の多い地域でも必ずしも人口が減少しているというわけではないのです。
世田谷区の人口や世帯数の増加から世田谷区内の住宅需要は伸びていくことが予想されますので、自治体や民間の取り組み次第で空き家を利活用し、放置空き家を減らすことが期待できるのです。
世田谷区の空き家対策とは?空き家の地域貢献活用に向けた取り組みが特徴
ここからは、世田谷区の空き家に対する取り組みをご紹介いたしましょう。
住まいやまちづくりに関する世田谷区の方針は「第三次住宅整備方針」に定められており、「安心と支えあいを実感できる質の高い住まい・まちづくり」とされています。
この方針では、区民の生活の健康・防災上の安全性や快適さ、さらに住まいやまちの継続的な活用を目的に、様々な施策が講じられています。
具体的には、住宅におけるセーフティネットの強化や災害・シックハウス症候群対策、さらに住宅な適切な管理およびその質の維持、空き家の活用やシェアハウスの推進などが挙げられます。
世田谷区内の空き家関連の対策としては不燃化特区制度があります。
この制度は世田谷区内の特定区域にある空き家および住宅の改修や除去に対する支援策です。
助成金が支給されるのは、昭和56年5月31日までに着工された木造または軽量鉄筋造の家屋を解体する場合、または耐用年数の2/3が経過した木造または軽量鉄筋造の解体と建て替えをおこなう場合です。
これらの助成金制度は工事の種別ごとに異なりますので、対象家屋ごとの申請が必要となります。
助成金の支給に加えて、対象家屋の所有者向けに無料の相談会や出張相談などの支援も受けることができます。
また、こちらの助成金を活用して改修や除去をおこなった土地や建物に対して、固定資産税や都市計画税の減免措置が適用される場合があります。
適用条件の詳細については、区役所での確認が必要です。
また、世田谷区では区内にある空き家を地域の活性化に活用できる資源ととらえ、世田谷区内の空き家を活用した地域貢献活用企画を募集しており、空き家の地域貢献活用助成事業として支援しています。
こちらの事業では、区が一般財団法人「世田谷トラストまちづくり」と協同で相談窓口を設置し、地域貢献に活用できる空き家の所有者と企画団体のマッチングもおこなっています。
希望に合う空き家の所有者を見つけた希望団体は、空き家を地域貢献に活用するアイディアを助成事業に応募できます。
助成対象として選ばれると1件につき最大300万円の助成金が支給され、空き家の改修工事などに使うことができます。
このように、世田谷区は空き家の改修や除去費用の助成制度に加えて、空き家の地域貢献活用に向けた取り組みも積極的におこなっているのです。
世田谷区の空き家の活用方法は?地域の交流や助け合いの場として活躍
それでは、最後に世田谷区での空き家の活用事例についていくつかご紹介いたしましょう。
「世田谷トラストまちづくり」の地域共生の家づくり支援制度では、空き家などの所有者が空き家を地域に開放し、地域住民と協同で公益的なまちづくり活動の場として活用する支援をおこなっています。
こうして作られた地域共生のいえは区内19か所にあり、子どもたちからその親、高齢者まで幅広い年代の方々の交流や支援の場として活用されています。
世田谷区社会福祉協議会が運営する「ふれあいの家」は、協議会に登録する活動団体が区に寄贈された空き家などを地域支えあい活動拠点として活用しているもので、高齢者向けサロンやミニデイサービス、子育てサロンなどとして使われています。
また、空き家等地域貢献活用事業に採択された、「ふかさわの台所」プロジェクトでは台所のある空き家を、子育てと食を中心としたコミュニティスペースとして活用するプロジェクトです。
地域の住民みんなで食事を作り、一緒に食べる食事会や子どもの料理教室、子育て中の親子の交流サロンなどとして利用されています。
また、同事業で採択されたANDITO+大蔵プロジェクトチームの「デイサービスと認知症カフェを整えた地域の多世代交流拠点づくり」は、空室となった木造アパートの1階3部屋を活用しています。
その木造アパートの1階部分に要介護の高齢者の自立を支援するデイケアセンターと、通所する高齢者の家族が気軽に立ち寄って相談できる認知症カフェを併設する試みです。
このように空き家の地域貢献活用を推進する世田谷区では、空き家は地域住民が交流し、助け合い、地域を活性化するユニークな試みの場として活用されているのです。
必見|東京でも増えている空き家バンクの取り組み内容を知っていますか?
まとめ
世田谷区の空き家数は全国最多で、特に使用目的のない空き家の数は今も増え続けていますが、同時に区内の人口や世帯数も増加傾向にあり、潜在的に空き家活用の需要があることが見込まれています。
また、世田谷区は空き家の地域貢献活用を支援しており、空き家を地域交流や地域の活性化の場として活用するユニークなアイディアが生み出されています。
これらのアイディアは空き家を活用すると同時に、少子高齢化社会の抱える様々な問題の解決の糸口を探る取り組みともなっており、今後のさらなる発展が期待されます。
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