全国的な空き家の増加やそれに伴う周辺地域への影響など、空き家問題が日本の社会問題として注目を集めて久しいですが、いまだ国内の空き家数・空き家率は増え続けています。
一方、国や地方自治体および民間団体が積極的に空き家対策に取り組んでいることもあり、近年、全国的な空き家の増加速度は緩やかになりつつあります。
そのような国や地方自治体による空き家対策の一つに、空き家となった古民家を観光や移住・定住政策に活用し、地域再生に役立てる取り組みがあります。
今回の記事では、このような空き家を活用した地域再生の取り組みについて、事例を交えながらご紹介いたします。
01空き家を活用した地域再生とは?空き家や古民家の現状と様々な取り組み
はじめに、国内の空き家と古民家を取り巻く現状や課題についてご解説しましょう。まず、冒頭でも言及したとおり、現在日本では空き家が増え続けており、社会問題の一つとして懸念されています。
総務省統計局は5年ごとに国内の住宅や土地に関する統計をまとめた「住宅・土地統計調査」を実施していますが、平成30年度の調査結果によれば、全国の空き家数はおよそ846万戸、空き家率は13.5%にものぼっています。
このうち、特に用途の定まらない空き家は347万戸にも及び、これらの空き家は用途がないことから放置されやすく、周辺地域の住環境に悪影響を及ぼす可能性が高いとして懸念されています。
また、都道府県別の空き家の現状については、少子高齢化の進行や都市部への人口の流入により過疎化の進む地方ほど空き家率が高くなる傾向にあり、空き家問題と人口減少が表裏一体の問題であることがうかがえます。
一方、古民家の現状についての全国的調査はありませんが、古くからの街並みが残る京都市の町家についての統計調査「京町家まちづくり調査」の調査結果を例に見てみましょう。
こちらの調査によれば、京町家の空き家率は平成15年度には6.1%であったのに対し、平成20・21年度には9.9%にのぼっています。
また、平成28年におこなわれた「京町家基礎調査に係るボランティア調査」では、空き家率が13.8%とさらに上昇していました。
古民家には昔ながらの日本の建築技術が使われていることも多く、修繕に必要な技術・知識を持つ職人が見つかりにくく、費用負担も大きいことが課題となっています。
このように、国内の空き家や古民家を取り巻く状況は深刻ですが、空き家や古民家を観光や移住・定住政策に活かして、地域の活性化を図る取り組みが注目を集めています。
日本政策投資銀行が平成26年に実施した「アジア8地域の訪日外国人意向調査」の中では、日本観光で訪れてみたい場所のイメージとして「日本的な街並み」が66%を獲得し、3位に選ばれており、テーマパークやショッピングモール、リゾート地などよりも高い人気を誇っています。
その土地の歴史や文化が蓄積された古民家は、そのような「日本的な街並み」を形成する重要な要素であり、地域の魅力となり得ます。
こうした観点から、国は歴史的な建造物を観光資源として活用し、地域の活性化に役立てる取り組みを推進しており、国家戦略特区における規制改革事項等の検討方針などでもこのような意向が示されています。
一方、地方自治体レベルでの空き家や古民家に関する取り組みとしては、移住・定住政策への活用があります。
この背景には、地方での少子高齢化や過疎化が進行した結果、古民家やその他家屋が空き家となるケースの増加や地域の経済の衰退、地域の魅力の低下などが起こり、さらなる人口の減少を招くという悪循環が各地で発生してきたことが挙げられます。
このような悪循環を断ち切るため、近年、いくつかの自治体では古民家や空き家の活用や移住・定住施策、地域の魅力の向上に並行して取り組み、地域を活性化に成功した事例も生まれています。
ここからは、古民家・空き家の再生と移住・定住施策、地域の魅力向上への取り組みが地域の活性化につながった事例について紹介していきましょう。
02アート×ツーリズムで空き家活用と地域再生を図る!兵庫県養父市の取り組み
まずご紹介するのは、アートをテーマとした観光を通じて地域の活性化を図った兵庫県養父市の事例です。養父市は兵庫県北部に位置する人口2.5万人ほどの市で、古くから養蚕業で栄えてきました。
中でも、市内の大屋町大杉地区には中3階建ての養蚕農家が複数残っており、平成13年には兵庫県の景観形成地区に指定されました。
また、地区内では木彫りや絵画、家具作りなどに携わる芸術家や職人が活動しており、特に木彫りフォークアートが有名です。
一方で、同地区は鉄道や国道などの交通手段やコンビニエンスストアなどの商業施設がなく、市内でも高齢化と人口減少が著しいエリアでもあります。
養父市は、アートや養蚕農家をはじめとした貴重な伝統建築を有する地域特性を活かして、地域活性化のためのプロジェクトに取り組んできました。
こうしたプロジェクトの一つが、アートを中心としたまちづくりです。
市民と行政は平成22年、「おおやアート村推進協議会」を発足させ、アートをテーマとしたまちづくりに向けた調査・協議を重ね、現在では「NPO法人 おおやアート村」として、在住アーティストの活動支援やイベント開催、地域資源を通じて、アート村の企画・運営に携わっています。
養父市のアートイベントとしては、毎年多くの人が訪れ、木彫家の登竜門ともなった「木彫りフォークアート・おおや」や、大屋地区で活動するアーティストの作品を公開する「うちげぇのアートおおや」などが有名です。
これらの活動に加え、市はアートを取り入れた観光産業やアーティストの移住促進にも取り組んでおり、アーティストの受け皿となる市内の空き家・空き店舗などの情報提供や住まいの斡旋などをおこなっています。
また、貴重な建築資源であるにもかかわらず、空き家となっている大屋町大杉地区の養蚕農家を保存するため、アート村の運営にこれらの資源を活用する試みもあります。
その一環として、かつて養蚕農家であった古民家は、現在アート作品の展示・収蔵スペースやアーティストのアトリエ・住居などとして活用されています。
空き家となっていた養蚕農家の一部は、現在では、アート作品のためのギャラリー兼カフェとして活用している「分散ギャラリー」や、アート作品の展示やイベントを開催することもできる滞在型体験施設「ふるさと交流の家 いろり」などに生まれ変わっています。
このように、アートを取り入れたツーリズムを通じて地域の資源を守り、地域の活性化につなげてきた養父市は、平成26年には国家戦略特区に指定され、今後、さらなる発展が期待されています。
03個性的な空き家と街並みを生かした地域再生!尾道空き家再生プロジェクト
次にご紹介するのは、「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」が中心となって取り組んできた、広島県尾道市での空き家活用を通じた地域再生です。瀬戸内海に面した広島県尾道市は、古くから港町として栄えてきた歴史があり、海に面した斜面に様々な時代の建築物が建ち並ぶ独特な様相を呈しています。
海と山に挟まれ、広大な土地を所有するのが難しいため大型店舗が進出することがなく、その結果街の景観が守られ、映画のロケ地としても使われてきました。
しかし、坂が多いために高齢者が生活するには向かず、空き家の増加が問題となっていました。
「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」の代表理事である豊田雅子氏は、尾道市の空き家問題について知ったことがきっかけで、自らも尾道の空き家を購入・再生し、その過程をブログで公開しました。
ブログでの反響が大きかったため、尾道の空き家再生により大きく貢献するために立ち上げられたのが、「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」です。
このプロジェクトでは、建築、コミュニティ、環境、観光、アートという5つのコンセプトに基づいた活動をおこない、それぞれの活動が空き家の再生や地域の活性化につながることを目指しています。
プロジェクトの代表的な活動の一つが尾道市と連携した空き家バンクの運営で、これにより尾道市空き家バンクではより幅広い形での情報提供や、入居後のアフターフォローの充実が可能となりました。
空き家バンクを利用した場合のアフターフォローとしては、空き家の残置物を出品する蚤の市や、車両の立ち入りができないエリアに入居する際のごみの搬出を手助けするボランティアなどがあります。
また、DIYで空き家を修繕したい入居者に向けて「尾道空き家サポートメニュー」を用意しており、修繕で人手や知識を要する場合には、サポートメンバーや専門家の手助けを受けることができます。
こうした活動の結果、「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」の参加以降、尾道市空き家バンクでは70件以上の成約を達成しています。
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04まとめ
年々深刻化する空き家問題ですが、国や自治体を中心に空き家や古民家の魅力を活かした地域再生の試みが始まっています。今回は、兵庫県養父市と広島県尾道市の事例を取り上げましたが、こうした動きは全国に広まっています。
地方移住をご検討中の方は、気になる地域の空き家再生の取り組みについても調べてみてはいかがでしょうか。
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