近年、空き家の増加や放置を防ぐため、空き家の管理や利活用に向けた様々な取り組みがおこなわれています。
国による空家対策特別措置法の施行や、自治体空き家バンクに加えて、空き家の利活用を支援するNPO法人や民間企業も登場しています。
空き家の問題に加えて空き地も解決すべき大きな課題の一つですが、空き家・空き地問題を解決に導く方法のひとつにランドバンクがあります。
2020年には国土交通省が「ランドバンク活用等のモデル調査」として、ランドバンクをおこなう地方公共団体やNPOのモデル団体を支援しています。
そこで今回の記事ではランドバンクについて、その概要や特徴、アメリカと日本のランドバンクの事例などをご紹介いたします。
空き家・空き地をまとめて活用・再生!ランドバンクとは?
はじめに、ランドバンクとはなにか、その概要や特徴などについてご紹介いたします。
まずは、ランドバンクの多いアメリカの場合を例にとって、ランドバンキングについてご説明しましょう。
ランドバンクとは、ランドバンキングと呼ばれる方法で土地開発をおこなう団体や企業を指します。
ランドバンキングでは、空き家や空き地などの活用されていない不動産を周辺の土地も含めて大規模に買い取り、その地域一帯をまとめて活用・再生します。
この方法は、街や住宅地に空き家や空き地が存在することで都市が荒廃する、いわゆるスポンジ化またはドーナツ化現象への対策として、1970年代のアメリカ合衆国で導入され、ミシガン州、オハイオ州で発展しました。
当初、ランドバンキングを担っていたのは地方自治体で、現在でも州法によりランドバンクが設けられている自治体がありますが、民間企業による不動産開発事業もランドバンキングと呼ばれるようになっています。
公的組織として設立されたランドバンクについては、原則的に州法がランドバンクの方法を定めています。
しかし、連邦政府の機関がマニュアルを発行しているため、異なる州のランドバンクであっても共通点が多いのが実態です。
一般的な方法としては、行政が設立した委員会が、税金の滞納など放置されていると思われる空き家を審査し、認定されるとランドバンクの手に引き渡されます。
ランドバンクは引き受けた空き家やその周辺環境から、整備・処分・緑地化などの活用方法を決定します。
こうして整備した不動産の賃貸・売却による収入はランドバンクの収益となりますが、物件の整備や除去にも費用がかかるため、州や国家からの資金援助がおこなわれています。
アメリカのランドバンクによる空き家・空き地の開発事例をご紹介!
ここからは、アメリカのランドバンクによる空き家・空き地の再開発の事例をご紹介いたします。
ランドバンクが介入する空き家や空き地の活用では、それぞれの不動産にとどまらず、街全体の包括的な不動産活用として、長期にわたる緑地化や公共的な設備や施設の整備の一環として計画する取り組みがおこなわれています。
たとえば、フィラデルフィア市では、地域の活性化と緑地化を目標に据えたランドケア・プログラムに取り組み、空き地の緑地化を試みています。
プログラムの中で市は140ヘクタールの土地を清掃し、緑地化を実施しています。
ランドバンクや市の水や不動産に関わる管理部門との連携を通じて、空き地のデータベースを活用して空き地の地下にインフラ整備を実施したのです。
これにより、雨水処理が可能な区域が拡大された結果、下水処理が効率化されて水質が改善し、さらに通常の工事をおこなった場合に比べて3分の1程度の経費削減にもつながったそうです。
また、産業跡地の再生・再開発に携わるランドバンクや連邦政府基金も存在します。
産業跡地の再生に特有の問題として、土地や建物が有害物質により汚染されている可能性が高いため、通常の住宅地などに比べて費用や時間がかかりやすい点が挙げられます。
さらに、アメリカでは工場などが閉鎖されていたとしても、元所有者や元事業者に汚染の法的責任を問う制度が確立されているため、処理や活用がおこなわれないケースが多くあるのです。
しかし、産業跡地は放置した場合、通常の住宅地以上に周辺地域に悪影響を及ぼす可能性が大きいため、再生に向けた公的支援がおこなわれるようになったのです。
近年では、ガソリンスタンドなどの産業跡地の再生に取り組むランドバンクがオレゴン州で立ち上げられました。
また、ゼネラル・モーターズが経営破綻した際には、その工場跡地を再生するための連邦政府基金が設立されています。
このような国や自治体が設立したランドバンク以外にも、環境と生態系の保全のために、世界規模で森林や湿地帯、河川などを保有し、管理するNPO団体も存在します。
こうした団体として挙げられるのが環境学の専門家たちが設立したザ・ネイチャー・コンサーバンシーで、その専門知識を駆使しつつ、世界中に点在する寄贈された土地の環境資源の保全に尽力しています。
日本のランドバンクの空き家・空き地再編手法をご紹介!つるおかランド・バンクとは
日本では、空き家や空き地が長期間放置された結果、所有者が不明となる不動産が問題になっています。
このような所有者が不明となってしまった土地や建物を解体・整備し、新たな所有者へと引き渡す懸け橋として、日本でもランドバンクに期待が寄せられています。
その一端として、2020年、国土交通省はランドバンクのモデル事業に着手し、地方公共団体やNPO団体によるランドバンキングの取り組みを支援しています。
最後に、国土交通省のモデル団体の一つにも選ばれた、つるおかランド・バンクについてご紹介いたしましょう。
つるおかランド・バンクは山形県鶴岡市で活動するNPO法人で、事業内容はランドバンキングを中心に、ランドバンクの助成事業、空き家バンク、空き家管理委託、空き家の用途転換となっています。
つるおかランド・バンクのランドバンク事業では、市街地のドーナツ化現象を解消し、地域の活性化につなげていくことを目的としています。
この事業では、空き家や空き地に加えてその周辺の狭い道路を、街の住みづらさの原因を作る一つの大きな問題ととらえています。
空き家や空き地の所有者から相談を受ければ、周辺の住民の協力を得ながら周辺の道路や土地の再編が可能であるかを検討し、生活しやすい環境を整備していきます。
つるおかランド・バンクのランドバンク事業は、小規模連鎖型区画再編事業と呼ばれるものです。
小規模連鎖型区画再編事業では、4メートル未満の道路周辺の空き家や空き地を寄付、または安価で売却してもらい、道路環境と土地の資産価値の向上を狙うものです。
上記でご紹介したアメリカのランドバンキングに比べると小規模で、土地の価値が劇的に向上するわけでもありませんが、周辺の道路が狭いなどの理由で空き地となってしまうケースの多い日本の現状には有効な手法といえるでしょう。
また、こうした空き家や空き地、道路までを含めた再編事業には、不動産や建築をはじめ、権利関係や税金、金融などの専門知識が関わってきます。
このため、つるおかランド・バンクでは、宅建業者や司法書士、建設業者、家屋調査士や金融機関など、各方面の専門家が連携して対応にあたっています。
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