日本全国の空き家は年々増加を続けており、その利活用の方法に注目が集まっています。
総務省による平成30年度住宅土地・統計調査では、東京都の空き家数はおよそ81万戸、空き家率は10%程度との統計が出ています。
この数値を全国の空き家の現状と比べると、東京都は空き家率では低いものの、空き家数は全国一位となっているのです。
しかし、東京都でもこうした状況を打開すべく空き家の利活用の試みが始まっています。
そこで今回の記事では、東京都の空き家の再生および活用に向けたプロジェクトをご紹介いたします。
空き家が高齢者や障がい者向けの住宅に!東京都豊島区の空き家再生プロジェクト
はじめにご紹介するのは、リノベーションした空き家を生活弱者向けの住宅として活用する東京都豊島区でのプロジェクトです。
先に述べた総務省による統計調査では豊島区の空き家率は23区内で最も高く、その空き家数は2万7千戸にも上り、区内の空き家のほとんどは賃貸用となっています。
しかし、賃貸住宅の大家の多くは家賃支払いや死亡事故などの不安を理由に、高齢者や障がい者などの生活弱者の入居を渋りがちなのが現状です。
こうした状況を打開すべく、一般社団法人コミュニティネットワーク協会が空き家の活用促進と高齢者や障がい者、生活困窮者の住宅確保を目指し、今回のプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの一環として築35年の空き家を改修して誕生した「共生ハウス西池袋」は、バスやトイレ、リビングやキッチンなどの共用スペースと、エアコン付きの個室4室を備えたシェアハウスです。
空き家の所有者と10年間の定期借家契約を締結し、高齢者や障がい者、生活困窮者など住まいを確保するのが困難な方の入居を受け入れる「住宅セーフティネット制度」に登録しています。
区の補助を受けた場合では、家賃4万9千円、共益費1万円と年金生活者でも生活しやすい価格設定となっており、病院への入退院時の付き添いや介護などにも対応しています。
また、このプロジェクトでは住まいの確保だけではなく、地域の住民と高齢者や障がい者がともに参加できる交流の拠点づくりもおこなっています。
シェアハウスから徒歩15分ほどの場所にある「共生サロン南池袋」では、新型コロナウイルスの感染予防対策をおこなった上で、シェアハウスの入居者と地元住民が集まり、麻雀や卓球、健康講座などの企画を楽しんでいます。
さらに、サロンから徒歩圏内にある雑司ヶ谷公園の「丘の上テラス」には、障がい者が就労するカフェ「共生サロン雑司ヶ谷」が開設される予定です。
東京都23区内で空き家率1位となってしまった豊島区ですが、高齢者や障がい者、生活困窮者の暮らしを支え、地域の交流を活性化するために空き家を活用する試みが進んでいるのです。
古い空き家をDIYで甦らせて地域貢献!東京の千住芸術村プロジェクトとは?
次にご紹介するのは東京の下町、足立区千住のNPO法人「千住芸術村空き家再生プロジェクト」です。
千住は大正から昭和初期に建てられ、戦災を免れた貴重な日本家屋が今も残る地域です。
そのような貴重な日本家屋ですが築50年以上ともなると老朽化が進み、また空き家の所有者も売却はしたくないものの、賃貸用物件として活用するにも手間がかかるなどの理由で放置されてしまうケースは珍しくありません。
「千住芸術村」ではこのような千住エリアの空き家を創意工夫によって甦らせ、若手芸術家や起業家たちに活動の場として入居してもらうことで、芸術の街づくりを目指しています。
このプロジェクトの活動目的の一つに千住地域の古い建物を守ることが挙げられます。
このため、空き家のリノベーションをおこなう際には所有者側のハードルを下げるべく、築50年から80年という老朽家屋を片付け作業から、改修リノベーションに至るまで可能な限りDIYでおこなっています。
工事せざるを得ない部分についても、費用の一部または全部をプロジェクト側が負担し、その分家賃を安めにしてもらうなど、所有者の負担を最小限に抑える工夫をしています。
また、芸術を通じた地域貢献を目指す「千住芸術村」は、空き家の入居者を選定するにあたって、入居者の経済面だけでなく地域の価値を高めることができるかを重視しているそうです。
そのため選考基準は、個人の意思と責任において、採算性と地域貢献を両立する活動ができる若者で、陶芸家や家具作家など創作した作品を販売できるアーティストやクリエイター、またはアート関連のショップや民間保育施設を運営する起業家などが挙げられます。
最後に、こうした「千住芸術村」の空き家再生事例の一部をご紹介いたしましょう。
たとえば、築61年の元洋品店は、東京芸大の学生たちの自主運営オルタナティブスペース「おっとり舎」として再生された後、現在では、各工房兼ギャラリー「イエノ」として運営されています。
また、築90年、10年以上にわたり空き家だったという二軒長屋は、路地裏美術館「ROJIBI」として生まれ変わり、1年間限定で開館しました。
現在では閉館していますが、今後和文化継承スペース「ROJICOYA」として再オープンする予定だそうです。
東京の空き家を自社負担で改修・サブリース!カリアゲの空き家再生プロジェクト
最後にご紹介するのは、東京23区内の空き家や空室を対象としたリノベーション施工会社ルーヴィスによる空き家再生プロジェクト「カリアゲ」です。
空き家は一旦放置してしまうと急速に老朽化が進んでしまい、利活用が困難になってしまいます。
しかし、空き家を賃貸物件として活用するためには改修工事が必要となることが多く、改修工事費用や物件を運営していくための管理や業務の手間は、所有者が空き家の利活用を躊躇する大きな要因となっています。
「カリアゲ」が提供するのは、そのような所有者の負担を軽減し、空き家の利活用を促進するサービスです。
まず「カリアゲ」では、東京23区内の築30年以上、空き家・空室期間が1年以上の個人の空き家や賃貸物件の空室を借り受けます。
ビル・店舗・倉庫や、利活用が難しいと言われる長屋・再建築不可物件も借り受けの対象となります。
物件の契約期間は6~8年で、ルーヴィスは賃料の9割を取得する代わりに、周辺エリアの賃料相場42か月分を上限として改修工事の費用を負担します。
契約期間中は入居者の募集や家賃回収をはじめとした賃貸管理業務はルーヴィスが引き受け、空室や家賃滞納が発生しても所有者への賃料支払いを保証してくれます。
契約が終了すれば物件は所有者の手元に戻り自由に活用することができますが、引き続きルーヴィスの管理代行による賃貸経営をおこなうことも可能です。
契約終了後のルーヴィスの賃貸管理代行では、空室・滞納保証付きであれば賃料の75%が所有者に支払われ、空室・滞納保証なしの場合の管理代行料は賃料の5~10%となります。
このようなサービスが実現した大きな要因の一つに、「カリアゲ」を運営するルーヴィスがリノベーションの設計や施工を専門とする会社であることが挙げられます。
「カリアゲ」によるリノベーションでは、原状復帰義務を課さず、借り手が物件を自分好みに改装できる余地を残しています。
また、築年数の古い物件に使われている素材は若い世代の借り手にとっては魅力的であることから、レトロな素材を活かすリノベーションを施しています。
こうした空き家や借り手の個性を尊重するリノベーションが魅力となり、「カリアゲ」の手掛けた物件には順調に入居希望者が集まっているそうです。
ノウハウがあるからこそコストを抑えつつ、築年数の古い物件に適切なリノベーションを施し、魅力的な物件として再生させることができるのです。